アートライフ
第4回 万葉集と植物


万葉集には150種以上の植物がある。
全4500首余りの歌の内の約1700首が植物にまつわる歌です。

万葉集が編まれたとされる奈良時代は植物との関わりが多様でした。
ただ鑑賞し愛でるだけでなく、髪に挿したり首飾りにしたり、染めたりなど、身を飾る素材としても日常的に植物を使っていたようです。

この時代の貴族たちは田暇(でんか)と称する農事休暇があり、自ら農事もしています。
植物が詠まれた歌も他の歌集に比べて万葉集が一番多く、時代が下るにつれ減っています。

歌になるイメージの高い桜や松が詠まれたのは平安時代からで、奈良時代に一番多く詠まれたのは萩でした。
萩の葉は栄養があるので家畜の飼料やお茶として、根は薬用、樹皮は縄に、花は観賞用で実は食用にしていました。

すみれも食用でした。春の七草と同じような感覚の野菜だったのです。すみれを摘む歌を幾つかご紹介します。



春の野にさけるすみれをてに摘みて わがふるさとをおもはゆるかな 良寛

あさぢ原見るにつけても思いやる いかなる里にすみれ摘むらん 紫式部

ふるさとの庭のむかしを思い出でて すみれつみにと来る人もがな 西行



万葉集の中には4首すみれの歌があり、その中の一首にこんな歌があります。


春の野に すみれ摘みにと 来(こ)し我そ 野をなつかしみ 一夜(ひとよ)寝にける
山部赤人(やまべのあかひと)


春の野にすみれを摘もうとして着たが、その野に心ひかれて とうとう一夜寝てしまった赤人は食用としてすみれを摘みに行ったけれど、その可愛さに心ひかれて離れがたくなってしまったのです。


イギリスにもすみれの詩があります。

The Violet

By JANE TAYLOR(1783-1824)

Down in a green and shady bed,
A modest violet grew,
Its stalk was bent, it hung its head,
As if to hide from view.

And yet it was a lovely flower,
It colours bright and fair;
It might have graced a rosy bower,
Instead of hiding there.

Yet there it was content to bloom,
In modest tints arrayed;
And there diffused its sweet perfume,
Within the silent shade.

Then let me to the valley go,
This pretty flower to see;
That I may also learn to grow In sweet humility.



ジェーン・テイラー 訳者不明

みどりの木陰の奥深く
しとやかな菫の花が咲いていた
茎をしならせ頭をたれて
まるで人目をさけるように

しかも菫は美しかった
色も明るく鮮やかで
そんなところに隠れてないで
ばらの茂みを飾ってもよいのだけれど

菫はそこに咲いていれば満足だった
慎ましやかな色合いで
そして静かな木陰のなかに
あまい香りを漂わせて

だからあの谷へ行かせてよ
このきれいな花を見たいから
そうすれば私にも慎ましく
生きるすべがわかるかも

他にもゲーテが書いた菫の詩をモーツァルトが歌にした「Das Veilshen KV476」やマネの「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」など、菫はいたるところで見つけられます。

参考文献

万葉植物辞典 北隆館

翰墨自在 清雅堂

論文 万葉集および平安期の勅撰和歌集にみる植物に対する行為
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/39/1/39_74/_pdf

POETRY FOUNDATIOM http://www.poetryfoundation.org/poem/182538